イスラーム法に基づいての結婚式

家族というのは、人間社会の最も基本的な構成単位である。イスラームの教えによると、家族の土台は結婚によって築かれる。結婚は、当事者たちの公民としての契約と見なされる。イスラーム教では、牧師はいないので、結婚式は、イスラーム法を知る者であれば誰でも執り行うことができ、また、当事者たちに都合の良い場所で行うことができる。この儀式は、「ニカーフ」、すなわち、結婚の宣言と呼ばれている。この儀式は、普通、モスクにおいて、そこのイマームが執り行う。花嫁、花婿と彼らの両親、友人、親類などが、結婚式場に集まり、イマームが次のように唱える。

讃えあれ、アッラー!我らはアッラーを褒め讃える。我らはアッラーに救いを求め、庇護を希う。我らがお縋りし信ずるお方は他にはいない。我らの行いから災いや害悪が生ずることのないようにお守りくださらんことを。アッラーが正しき道にお導きくだされば、誤れる道に踏み迷うことはない。アッラーが道を誤った者と宣告なされば、もはやその者を正しき道へ引き戻すことはできない。アッラーの他に神はいないと証言しよう。アッラーは誰一絶対の存在であり、無比なるお方。ムハンマドがアッラーの下僕であり使徒であると証言しよう。

さあ、お前たちの主を屁護者とせよ。アッラーは、一人の人間からお前たちを創り出され、その身体の1部からお前たちの配偶者を創られた。そして、そのように男と女とを増やされていった。アッラーを畏れよ。お前たちが願い事をする時、その名を唱えるお方を。母なる子宮との関係を正しく保つよう心がけよ。まこと、アッラーはお前たちを見守っておられる。

さあ、信者たちよ!アッラーに対するお前たちの勤めを忘れてはならない。嘘偽りのないことを言うように。そうすれば、アッラーはお前たちの行いを正しくお導きくださり、罪をお許しくださるであろう。アッラーとその使徒に従う者は、まこと、大きな成功を遂げる。

さあ、信者たちよ!アッラーを畏れよ。あらゆる物事が次には何を生ずるか、よく気を付けるのだ。そしてアッラーを畏れよ!まこと、アッラーは、お前たちのすることを良くご存知でいらっしゃる。」

アラビア語で行われるこの説教は、このような結婚の儀式の時に、イスラーム教の聖なる預言者自身が行ったものと同じである。この説教に続き、イマームからの説話が行われることもあり、イスラーム教の結婚制度の尊厳と、妻や夫としての義務や責任等が説明される。説教の後、イマームは当事者たちの名を呼びあげ、結婚の成立を宣言する。イスラーム教における結婚は、1人の男と1人の女との間に結ばれる契約であり、その結婚に対しては、何らの法的制約もないので、花婿の同意と、花嫁と彼女の保護者との同意とが一番重要であると考えられている。そこで、イマームは、花嫁の保護者に対し、自分の娘、あるいは自分が後見人となっている娘と花婿との結婚に同意するかどうか、公の場で表明するように求める。保護者が同意を表明すると、イマームは、次に、花婿に対し、名を呼びあげた花嫁との結婚に合意するかどうか表明するように求める。花嫁の自由意志による同意は、普通、結婚の儀式の前に、直接、あるいは間接的に得られている。通例、結婚の契約書が花嫁と彼女の父親、あるいは後見人と花婿によって作成され、2人の証人がそれに署名する。式の前にあらかじめ取り決められていた婚資(夫から妻に贈られる贈与財産)も発表される。イマームの導く無言の祈りで式がすべて終わり、挨拶が交わされる。乾燥したナツメヤシの実等のお菓子が参列者に振舞われる。

 

花嫁の見送りの儀式

ニカーフの儀式が済むと、その男女は、法的には夫婦と認められるが、見送りの儀式を行うまでは、一緒に住まないのが普通である。花婿が彼の親類や友人と共に花嫁の家を訪れるか、あるいは、どこか別の適当な場所に集まる。そこには、花嫁の親類も全員集まり、二人の幸福を願う人々も、この祝いに参加する。出席者に軽食が用意されるのが普通である。花嫁の両親や二人の幸福を願う人々から贈り物の品々が二人に贈られ、二人が独立した生活を築き上げるのに役立てられる。無言の祈りを捧げ、花嫁と別れを告げる。花婿と彼の一行が花嫁の家を訪れることは、必ずしも必要とは決まっていない。時には、両親と親類に別れを告げた花嫁が、夫の家へ行って、彼と一緒になることもある。

 

ワリーマ 披露宴

結婚が成立すると、花婿は、彼の親類や友人、知人、花嫁の親類等をワリーマ、パーティーと呼ばれる結婚の祝宴に招待する。この為の特別な招待状が印刷されることも一般的に行われている。この祝宴の際には、貧しい人々にも食べ物が配られる。出席者たちは、皆、新しく結婚生活を始めた夫婦の繁栄と幸せを祈る。

 

結納金の支払い

イスラームの教えでは、男は自分の妻子の生活に必要なものを与える責任を負っている。聖典クルアーンには、次のように記されている。

「妻たちには贈与財を快く払うのだ。しかし、もし妻たちが、自分からそのうちのいくらかでも返して寄越したなら、その時には、気持ちの優しい良い行いと思って、それを受け取れば良い。」(4章5節)

お金や不動産、その他の貴重品等が、婚資として妻に贈られ、当然それは妻の所有物となる。その支払いは、時間をかけて話し合い、相互の同意を得た上で決定される。贈与の種類や支払いの方法は、ニカーフの儀式の際にはっきり示され、結婚の契約書に記載される。贈与の額は、花婿の資産によるが、多すぎても、少なすぎてもいけない。婚資は、花嫁が取り止ることに同意しない限り、必ず支払うべきものである。